透明樹脂とは?種類ごとの物性と光学用途の選び方

基礎知識

透明樹脂とは?種類ごとの物性と光学用途の選び方

透明樹脂とは、可視光域の光を高い割合で透過するプラスチックの総称です。機器カバーからスマートフォンのカメラレンズまで用途は広範ですが、透明性の高さがそのまま光学部材としての適性を意味するわけではありません。本稿では物性を一次情報の数値で整理し、光学用途における選定基準まで扱います。

📌 3行でわかる要約

  • 「透過率○%以上」という公的な閾値の定義は存在しない。判断基準となるのは用途ごとの要求値である
  • 透明性の有無は、分子配列が無秩序(非晶性)か規則的(結晶性)かでほぼ決定される
  • 光学用途では透過率のみでは不十分であり、屈折率・アッベ数・複屈折・耐熱を併せて評価する必要がある

透明樹脂とは

光をよく通すプラスチックの総称

透明樹脂とは、可視光をよく通すプラスチックの総称です。アクリル樹脂(PMMA)の全光線透過率は92%であり、同一資料におけるガラスの90%を上回ります(旭化成 デルペット、ISO 13468-1)。

「透過率○%以上」という定義は存在しない

「全光線透過率80%以上を透明樹脂とする」という説明が流布していますが、JIS・ISO・業界団体のいずれにおいても閾値の定義は存在しません。JIS K 7361-1:1997 は測定方法を規定する規格であり、合否基準を定めるものではありません。

同一の90%という数値であっても、看板用途では十分でもレンズ用途では不足するように、閾値ではなく用途の要求値が判断基準となります。

全光線透過率とヘイズは別の指標

  • 全光線透過率 … 入射光束に対する透過光束の割合。JIS K 7361-1:1997(ISO 13468-1 準拠)
  • ヘイズ(曇り度) … 透過光のうち拡散成分が占める割合。JIS K 7136:2000(ISO 14782 準拠)

透過率が同一であっても外観上の明瞭度は一致しません。COC(環状オレフィンコポリマー)の光学グレードは透過率91%に対しヘイズ0.5%以下ですが、一般グレードは同じ透過率91%でヘイズ2〜3%に達します。


樹脂が透明になる仕組み

非晶性樹脂は分子がバラバラだから光が通る

非晶性樹脂とは、高分子鎖が長距離秩序を持たずランダムに固化する樹脂です。ガラスと同様に結晶粒界を持たないため、可視光は散乱を受けずに透過します。PMMA、ポリカーボネート(PC)、PS、COPが該当します。

結晶性樹脂は粒の境目で光が散る

結晶性樹脂は、高分子鎖の一部が規則的に配列した結晶相と非晶相が共存する構造を取ります。両相間で屈折率が異なるため、その界面で光が散乱し白濁を生じます(河合宏政「光学用プラスチック材料」『光学』24(2), 1995)。

例外として、ポリメチルペンテン(PMP/TPX)は結晶性でありながら結晶相と非晶相の屈折率が近接するため、透明性を示します(河合1995)。


主要な透明樹脂の種類と物性比較

一覧表で見る主要透明樹脂

一次情報に基づく数値のみを示します。

樹脂屈折率 ndアッベ数 νd全光線透過率(%)
PMMA(アクリル)1.4925892(ISO 13468-1)
PS(ポリスチレン)1.5923189(ISO 13468-1)
SAN(AS樹脂)1.5673587(ISO 13468-1)
PC(ポリカーボネート)1.5843187(ISO 13468-1)
PVC(硬質塩ビ)1.5484(ISO 13468-1)
COP1.53556 ※90以上(ASTM D1003)
COC1.5445691(JIS K7361, 3mmt)
PMP(TPX)1.4666190
特殊PC(ユピゼータ®EP)1.616〜1.67119.2〜25.8

出典:旭化成 デルペット河合1995三井化学 APEL日本ゼオン 光学グレードの物性値ユピゼータ®EP 製品情報

表の注記

  • 全光線透過率の測定規格はISO 13468-1/JIS K 7361/ASTM D1003間で不統一であり、厚み条件も一致しないため、厳密な横並び比較はできません
  • COPのアッベ数(※)は河合1995による値です
  • PET・PETG・透明ポリアミドは一次情報が未確認のため除外しています。表中の「−」は未公表項目です
  • 銘柄間でも数値は変動します(COPの屈折率は実測1.51〜1.53/島津製作所)。設計時は使用グレードのTDSでの確認が必要です

樹脂ごとの性格

  • PMMA … 透明性は樹脂中で最上位に位置し、河合1995は「プラスチックの女王」と評します。飽和吸湿率2.0%が弱点です
  • PC … 耐衝撃性が他樹脂と隔絶しており、IZOD衝撃値はPCが650 J/m、PMMA・PSは20 J/mで32倍の差を示します(三井化学、ASTM D256)
  • PS・SAN・PVC … 安価である一方、複屈折や耐熱の面で精密光学には不向きです
  • COP・COC … 吸水率0.01%未満、Tgも122〜155℃と幅広い分布を示します

吸水率については、こちらの記事でも解説しています。


用途から選ぶ透明樹脂

見せる・守る用途

被視認性の確保と内容物の保護を目的とする用途では、透過率・耐衝撃性・コスト・耐候性が支配的な選定要因となります。

PMMAは全反射を利用した照明・意匠部材に、PCは薄い導光板や高い耐衝撃性が求められる部材に採用されます。

精密な光学用途

レンズやセンサー周辺部材では、透明性の有無に加えて結像性能が問われます。

対象領域はスマートフォンカメラ、XR(AR/VR)グラス、車載カメラ、HUD、光通信部品などです。COC光学グレードはスマートフォンや車載のカメラレンズ、HMD・HUDなどへの採用例が公表されています。

選定の手順

  1. 用途の要求値を数値で規定する(透過率・使用温度・寸法公差など)
  2. 全光線透過率とヘイズによる一次スクリーニングを行う
  3. 耐熱・吸水・耐衝撃・コストで候補を絞り込む
  4. 光学用途であれば、さらに屈折率・アッベ数・複屈折で決定する

光学用途で見るべき4つの物性

屈折率 光をどれだけ曲げられるか

屈折率とは、光が媒質に入射する際に、その進行方向がどれだけ変化するかを表す物性値です。

空気は約1.0、水は1.3、一般的なPCは1.58です。屈折率が高いほど、より薄いレンズで同等の光学的作用を得られます。

屈折率については、こちらの記事でも解説しています。

アッベ数 色のにじみを左右する

アッベ数とは、波長による屈折率の差、すなわち分散の程度を表す数値です。値が小さいほど波長間の屈折率差は大きくなります。

屈折率とアッベ数には、両者を同時に高めることが困難であるというトレードオフがあります。屈折率の高いPS(1.592)とPC(1.584)はアッベ数31である一方、屈折率の低いPMMA(1.492)とPMP(1.466)はそれぞれ58、61を示します(河合1995)。

設計ではこのトレードオフを逆用し、高分散材料と低分散材料を組み合わせて色収差を打ち消します。

アッベ数については、こちらの記事でも解説しています。

複屈折と光弾性係数 見えない歪みが画質を落とす

複屈折とは、光線が異方性物質(性質が方向によって異なる物質)を透過する際に、偏光方向に応じて2つの屈折光に分かれる現象です。成形時に高分子鎖が配向するとこの状態が生じ、像がにじみ、偏光を利用する機器では画質が低下します。透過率には現れないため見落とされやすい物性です。

PMMAを1とした成形品複屈折の相対値は、PMMA 1、PC 8、SAN 15、PS 20 です(河合1995)。

もう一つの指標が光弾性係数であり、応力に対してどれだけ複屈折が生じやすいかを表します。PMMAは −6、PCは 90 です(×10⁻¹³ cm²/dyne、河合1995)。符号は方向を表すため強度は絶対値で比較し、PCはPMMAの15倍程度応力に敏感です。

そのためPCは、耐熱と耐衝撃で優れていても精密レンズには使いにくくなります。低複屈折を狙った設計も進み、COC光学グレードでは複屈折20nm未満(角板65×35×3t中央部Φ25の実測条件)まで抑えた例が公表されています。

複屈折については、こちらの記事でも解説しています。

耐熱と吸水 環境が変われば光学性能も変わる

耐熱性の指標はガラス転移温度(Tg)であり、これを超えると樹脂は軟化しレンズ形状を維持できなくなります。熱変形温度はPMMAが100℃、PCが130℃です(河合1995)。

吸水は寸法変化を引き起こし、屈折率にも影響します。飽和吸湿率はPMMAが2.0%、PCが0.4%、COP系は0.1%未満です(河合1995)。同文献には湿度変化に伴い焦点距離が変動する実測データも示されています。

関連指標については以下の各記事で詳しく解説しています。

ガラス転移温度Tgとは線膨張係数CTEとは


高屈折率と低複屈折を両立するユピゼータ®EP

ユピゼータ®EPの位置づけ

三菱ガス化学のユピゼータ®EPは、光学用途の特殊ポリカーボネート樹脂です。

屈折率は一般的なPCの1.58に対し1.616〜1.671の帯域にあります。アッベ数は19.2〜25.8、ガラス転移温度Tgは140〜145℃です。

ユピゼータ®EPの詳細情報はこちら

想定される用途

公式に示される主要用途は3領域です。

  • スマートフォン … カメラレンズの薄型化と画質向上
  • XR(AR/VR) … 広い視野角と装着感の両立
  • 車載カメラ … 耐熱性でレンズ形状と光学物性の変化を抑える

まとめ

選定の考え方

透明樹脂に「透過率○%以上」という公的な定義は存在しません。用途の要求値に基づいて判断するのが実務上の原則です。見せる・守る用途では透過率・耐熱・耐衝撃・コストで選定が完結しますが、光学用途ではその先に、屈折率・アッベ数・複屈折・耐熱と吸水という選定基準が控えています。

ユピゼータ®EPについて

ユピゼータ®EPは三菱ガス化学の光学用特殊ポリカーボネート樹脂です。屈折率1.616〜1.671、アッベ数19.2〜25.8、Tg 140〜145℃のグレードがあります。

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ユピゼータ®EP(Iupizeta EP)公式サイト


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