アッベ数とは?色収差の基本から光学材料の選び方まで

基礎知識

アッベ数とは?色収差の基本から光学材料の選び方まで

アッベ数は、レンズ材料が光をどれだけ波長ごとに分散させるかを表す指標です。値が大きいほど色収差は小さくなりますが、値が小さい材料が劣っているわけではありません。本稿では定義式の意味から材料ごとの実測値、レンズ設計における使い分けまでを扱います。

📌 3行でわかる要約

  • アッベ数 νd=(nd−1)/(nF−nC)。値が大きいほど、波長による屈折率の分散は小さい
  • 屈折率とアッベ数は相反する。屈折率を高めて薄型化を図る材料ほど、アッベ数は低下する
  • 色消しレンズの成立には低アッベ数材料が不可欠であり、低い値は欠点ではなく機能である

アッベ数とは 光の色のばらつきを表す数値

アッベ数の意味をひとことで

アッベ数は、レンズ材料における波長分散の小ささを表す指標で、記号は νd です。

白色光は複数の波長成分から成り、レンズを透過する際に波長ごとの屈折率差に応じて分離します。この分離の度合いを分散と呼び、アッベ数が大きいほど分散は小さくなります。名称はドイツの物理学者エルンスト・アッベ(Ernst Abbe)に由来します。

定義式 νd=(nd−1)/(nF−nC) の読み方

定義式は次のとおりです。

νd = (nd − 1) / (nF − nC)

  • 分子(nd − 1):屈折力の大きさを表す。nd が大きいほど屈折角は大きくなる
  • 分母(nF − nC):青色光と赤色光における屈折率差、すなわち波長依存性の大きさを表す

したがって νd は「屈折力 ÷ 波長依存性」として解釈できます。光学ガラスの N-BK7(nd 1.51680、nF 1.52238、nC 1.51432)を式に代入すると 64.1 となり、公表値 νd 64.17 と一致します(SCHOTT)。

基準になる3つの波長

d・F・C は、フラウンホーファー線と呼ばれる特定波長の輝線を指す記号です。

記号波長光源元素見える色
d線587.56 nmヘリウム(He)
F線486.13 nm水素(H)
C線656.27 nm水素(H)

これらは JIS B 7090:1999(ISO 7944:1998) に規定された値であり(島津製作所)、実務では 587.6 / 486.1 / 656.3 nm と丸めて扱われることもあります。


光の分散と色収差 アッベ数が効く理由

分散とは 色ごとに屈折率が変わること

屈折率は光の屈折の度合いを表す値であり、波長によって変化します。多くの透明材料では短波長側(青色光)ほど屈折率が高く、この波長依存性が分散です。

軸上色収差と倍率色収差

分散が存在すると、結像における色ごとの結像位置・倍率にずれが生じ、色収差として現れます。色収差は軸上色収差と倍率色収差の2種に大別されます。

軸上色収差(縦色収差)
波長によって焦点位置がずれる現象です。画面中央部でも生じ、像全体の解像を低下させます。絞り込みにより低減できます。

倍率色収差(横色収差)
波長によって像の倍率が変化する現象です。画面周辺部で輪郭に色づきを生じます。レンズ中心を通る主光線でも発生するため、絞りによる軽減はできません

対物レンズにおいては軸上色収差の補正が必須とされ、補正の程度に応じてアクロマート・アポクロマートに分類されます(ニコンソリューションズ日本天文学会『天文学辞典』)。


主要な光学材料のアッベ数一覧

光学ガラスと光学樹脂を並べて見る

材料ごとの屈折率とアッベ数を表に示します。

材料種別屈折率 ndアッベ数 νd
N-BK7光学ガラス1.5168064.17
PMMA(アクリル)光学樹脂約1.49約57(※)
COP光学樹脂1.53556
標準ポリカーボネート光学樹脂1.58630
ユピゼータ®EP(特殊PC)光学樹脂1.616〜1.67119.2〜25.8

出典:SCHOTT、日本ゼオン、MGCトレーディングユピゼータ®EP
※PMMA・標準ポリカーボネートは業界の代表値です。文献によりPMMAはνd 57〜58、標準PCはnd 1.58台前半・νd 30〜31程度の幅があります。設計時にはメーカー最新の技術データシートをご確認ください。

カタログ値の読み方

物性表に記載された数値が測定値か規格値かは、区別して読む必要があります。ユピゼータ®EPには次の注記があります。

この物性表に記載されているデータは、測定値であり、規格値ではありません。

測定値は代表的な条件下での実測値であり、保証された上限・下限を意味しません。公差を詰める段階では、測定条件(波長・温度・試験片厚み)まで確認することが求められます。


屈折率とアッベ数のトレードオフ

高屈折率ほどアッベ数は下がる

光学材料には、屈折率とアッベ数が相反するという不可避の傾向があります。屈折率を高めるほど、アッベ数は低下します。

ユピゼータ®EPもこの傾向を示し、屈折率が 1.616 から 1.671 へ上昇する過程で、アッベ数は 25.8 から 19.2 へ単調に低下します。光学ガラスにおいても同様で、N-BK7 のアッベ数 64.17 に対し、色消し用のフリントガラスは 30 前後にとどまります。

この要因は材料の電子構造に求められます。屈折率を高める分子構造は、同時に波長依存性を増大させるためです。

屈折率が高い材料はレンズの薄型化に寄与する一方、色収差は増大します。この相反関係が光学設計における出発点となります。

身近な例 メガネレンズ

同様のトレードオフは眼鏡レンズにも当てはまります。屈折率1.74程度の高屈折率レンズではアッベ数が31程度まで低下する例があり、屈折率1.50前後のレンズはアッベ数50台を示します。屈折率を高め薄型化を図るほど、色収差は顕在化しやすくなります。個別グレードの数値はメーカー最新カタログを参照されたい。


低アッベ数材料の使いどころ 色消しレンズ設計

単レンズなら「大きいほど良い」

単レンズ構成であれば議論は単純で、アッベ数が大きい材料を選定するほど色収差は小さくなります。教科書的な「アッベ数は大きいほど良い」という記述は、この前提に基づきます。

しかし実際の光学製品が単レンズで構成されることは稀です。スマートフォンカメラは複数枚のレンズを重ねた構成をとり、枚数の増加に伴いこの前提は反転します。

アクロマートレンズの仕組み

色収差を補正する古典的手法がアクロマート(色消しレンズ)です。

  • アッベ数が大きい材料の凸レンズ(低分散のクラウンガラス、νd 約65)
  • アッベ数が小さい材料の凹レンズ(高分散のフリントガラス、νd 約30)

この2枚を貼り合わせることで互いの色収差が相殺し、選定した2波長が同一位置に結像します。

色消しの条件は、各レンズのパワー(屈折力)をアッベ数で除した値の総和をゼロとすることです。凸レンズと凹レンズは符号が逆であるため、アッベ数に差があればこの条件を満たせます。両者のアッベ数が等しい場合はパワーの総和もゼロとなり、レンズとして機能しません。すなわちアッベ数の異なる材料をペアにすることが色消しの必須条件となります。

低アッベ数材料は劣った材料ではなく、色収差補正を担う凹レンズ側に用いられる機能材料です。ユピゼータ®EP(νd 19.2〜25.8)のような高分散・高屈折率樹脂は、この役割を担います。

アッベ数だけで材料を選ばない

実務における材料選定では、アッベ数以外の指標も同時に評価します。

  • 複屈折:成形時の分子配向により光が2方向の屈折光に分かれる度合い
  • ガラス転移温度 Tg:軟化が始まる温度
  • 全光線透過率・ヘイズ:透過率と曇り度
  • 吸水率:吸湿に伴う寸法・屈折率変化
  • 成形流動性:薄肉・小径レンズへの充填性

標準的なポリカーボネートは高屈折率である一方、面内複屈折が大きい傾向を持ちます。MGCトレーディング公開の比較表では、標準PC 230に対しユピゼータ®EPは5〜6です(面内複屈折、1/32厚)。

関連指標については以下の各記事で詳しく解説しています。

複屈折ガラス転移温度Tg全光線透過率・ヘイズ吸水率


ユピゼータ®EPという選択肢

高屈折率と低複屈折を両立した特殊ポリカーボネート

ユピゼータ®EPは、三菱ガス化学が開発した光学用特殊ポリカーボネート樹脂であり、射出成形用ペレットとして供給されます。特長は、高屈折率(nd 1.616〜1.671)、低複屈折、高耐熱性(Tg 140〜145 ℃)、流動性、サステナブル、軽量の6点であり、想定用途はスマートフォンカメラ、WEBカメラ、AR/VR、車載光学系です。

分散も設計できる材料

ガラスは既存の硝材リストから選定するのに対し、樹脂は組成自体を設計変数とできます。ユピゼータ®EPでは200種以上のモノマーの組み合わせにより、屈折率・複屈折・耐熱性・波長分散をカスタマイズ可能です。

目標とするアッベ数の値から組成検討に入れる点が、既存硝材リストからの選定を前提とする設計との相違点です。


まとめ

  • アッベ数 νd=(nd−1)/(nF−nC)=「屈折力 ÷ 波長依存性」。値が大きいほど色収差は生じにくい
  • 屈折率を上げるとアッベ数は低下する。薄型化と色収差抑制はトレードオフの関係にある
  • 単レンズでは大きいほど有利だが、複数枚構成では低アッベ数材料が色消しに不可欠となる
  • 材料選定では複屈折・Tg・透過率・吸水率・成形流動性も同時に評価する

アッベ数が低い材料は、色収差を打ち消すために設計者が意図して選定する機能材料です。ユピゼータ®EPは νd 19.2〜25.8 の高分散領域を、射出成形可能な樹脂として提供します。グレード別の物性や測定条件、サンプルに関するお問い合わせは公式サイトから受け付けています。

ユピゼータ®EP(Iupizeta EP)公式サイト


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