基礎知識
吸水率とは?光学樹脂の寸法と屈折率が動く理由
プラスチックは空気中あるいは水中の水分を経時的に取り込み、その取り込みやすさを数値化したものが吸水率です。吸水率の高い樹脂は寸法・強度が変化し、光学部品ではさらに屈折率までもが変動します。本稿では、測定方法から樹脂種による差異、成形現場における管理までを整理します。
📌 3行でわかる要約
- 吸水率は水分吸収による質量増加率であり、JIS K 7209/ISO 62では 23℃の水中に24時間浸漬した値 を基準とする
- 同一樹脂でも 24時間値・飽和値・平衡値 のいずれを採るかで数値は2倍以上変動する
- 吸水は寸法変化にとどまらず 屈折率 をも変動させ、レンズの焦点距離をずらす
吸水率とは
吸水率は「水で増えた重さの割合」
吸水率とは、樹脂が水分をどれだけ取り込むかを質量変化として表した指標です。プラスチックは空気中や水中の水分を経時的に取り込み、樹脂内部に保持します。
算出方法は、浸漬前後の質量を比較し、増加分を浸漬前の質量で除して100を乗じるというものであり、単位は%で示されます(JIS K 7209)。
「吸水」と「吸湿」、そして骨材の吸水率
水中での測定を「吸水」、湿潤空気中での測定を「吸湿」と呼び分けますが、両者は同一規格の枠内に位置づけられており、カタログ上ではいずれも「吸水率」として併記されるため、参照時には注意を要します。
なお骨材やコンクリートにおける「吸水率」は、表面乾燥飽水状態における水分量を絶対乾燥状態の質量で除した、樹脂とは異なる定義に基づきます。以降は樹脂に限定して論じます。
吸水率の測定方法と規格
JIS K 7209とISO 62の4つの試験方法
日本ではJIS K 7209(プラスチック―吸水率の求め方)、国際規格ではISO 62、米国ではASTM D570が用いられます(JIS K 7209:2000はISO 62に整合)。JISが規定する試験方法は4種です。
| 方法 | 測定条件 | 得られる値 |
|---|---|---|
| A法 | 23±1℃の水に24±1時間つける | 「吸水率」の代表値 |
| B法 | 沸騰水に30±2分つける | 短時間で吸いやすさを見る |
| C法 | 浸漬後に再乾燥して補正する | 水溶性成分を除いた値 |
| D法 | 23±1℃・湿度50±5%に24±1時間置く | 「吸湿」側の値 |
出典:JIS K 7209:2000
米国のASTM D570においても23±1℃・24時間が標準的な条件であり、物性表には「24時間・3.2mm厚」のように試験片厚が併記されます。
24時間値・飽和値・平衡値を読み分ける
同一樹脂であっても、測定条件により以下の3種の異なる数値が導かれます。
- 24時間値:23℃の水中に24時間浸漬した値。カタログにおける代表値
- 飽和値:それ以上吸水しなくなるまで浸漬した値。24時間値を上回る
- 平衡値:所定湿度の空気中で平衡に達した値。使用環境に近似する
あるポリカーボネート(PC)の物性表では、飽和値0.3%(23℃の水中)と平衡値0.12%(23℃・湿度50%)が併記されており、同一材料で2.5倍の差が生じています。ナイロン66についても、24時間値1.5%に対し、条件が示されないまま8.4%という数値が流通している例があります。

主要樹脂の吸水率を比べる
吸水率の比較表
代表的な樹脂の吸水率を、測定条件とともに以下に示します。条件の異なる数値を単純に並列比較することはできません。
| 樹脂 | 吸水率 | 測定条件 |
|---|---|---|
| ナイロン6(PA6) | 2.90 % | ASTM D570・23℃水中24時間・3.2mm厚 |
| ナイロン66(PA66) | 1.50 % | ASTM D570・23℃水中24時間・3.2mm厚 |
| アクリル(PMMA) | 2.0 % | 飽和吸水率 |
| ポリカーボネート(PC) | 0.3 %/0.12 % | ISO 62・23℃水中の飽和値/23℃湿度50%の平衡値 |
| ポリアセタール(POM) | 0.22 % | ASTM D570・23℃水中24時間 |
| PBT | 0.1 %以下 | 規格・条件の公表なし(参考値) |
| COP/COC | 0.01 %未満 | メーカー公表値。測定条件は未記載 |
出典:三ツ星ベルト、Covestro、ウイルコ、ミスミ、日本ゼオン各社の公開資料、および河合宏政「光学用プラスチック材料」光学 24(2), 1995
光学樹脂に限定すれば、飽和吸水率はPMMA 2.0%>PCHMA 1.2%>ARTON 0.5%>PC 0.4%>PS 0.1%>COP 0.1%未満の順となります(河合, 1995)。1995年の文献値であり現行グレードの数値ではないものの、樹脂種のみで1桁以上の差が生じています。
なぜ樹脂ごとに差が出るのか
差異を分ける要因は分子構造中の酸素の有無であり、水分子が酸素原子と結合しやすい性質に起因します。
- 0.1%以下:酸素を含まない(PE、PP、フッ素樹脂、PS)
- 0.1〜1%:エステル結合・エーテル結合により酸素を含む(PC、PET、アクリル、POM)
- 1%以上:水酸基(OH)により酸素を含む、またはアミド結合を有する(ナイロン)
分子鎖が規則的に配列した結晶領域には水分子が侵入しにくいため、結晶化度も吸水率に影響します(旭化成 デルペット技術資料)。

吸水すると何が起こるのか
寸法が変わり、強度が下がる
吸水した樹脂は膨潤します。あるアクリル樹脂の資料では、20℃において湿度0%から100%への変化に伴い寸法が約0.4%変化するとされ、1mの部品では約4mmに相当します。ただしこの変化は緩慢であり、厚さ3mmの試験片が落ち着くまでに30日以上を要します。
強度も低下します。侵入した水分子が高分子どうしの結びつきを緩め、可塑剤(やわらかくする添加剤)として作用するためです。引張応力は約75MPa(水分0%)から約60MPa(水分1.6%)へ低下する例が報告されており(旭化成 デルペット技術資料)、吸水した樹脂は一般にガラス転移温度(Tg)も低下する傾向を示します。
成形のときに加水分解が起こる
エステル結合を持つ樹脂(PET、PBTなど)やカーボネート結合を持つPCは、熱と水が同時に加わると結合が切断されます。これを加水分解と呼び、分子鎖が短くなることで強度が低下します。ポリエステル系樹脂の成形では溶融樹脂が250〜320℃に達するため、わずかな水分でも加水分解が進行します(近藤, 1996)。こうした結合を持つ樹脂に共通する性質であり、したがって成形前の乾燥が欠かせません。
加水分解についてはこちらで詳しく解説しています。
光学部品では屈折率が動く
ここが光学部品に特有の問題です。吸湿は形状を膨潤させるだけでなく、屈折率そのものを増減させ、焦点距離や波面収差を変動させます。
湿度を99%→7%→99%と変えたとき、プラスチック光学系の焦点位置が数百μmの幅で動いた例があります(河合, 1995)。しかもこの変化は緩やかな経時変化であり、温度変化のような直線的な可逆性を持ちません。事後補正による回避が難しい変化です。

成形現場での実務 ― 予備乾燥と水分率
「吸水率」と「成形時の推奨残留水分率」は別の指標
カタログの吸水率は%の単位ですが、成形時に守るべき残留水分率は桁が2つ違います。この値を超えると加水分解の危険が高くなる水分率です。
| 樹脂 | 推奨残留水分率 | 平衡水分量(20℃・湿度65%) |
|---|---|---|
| PC | 0.02 %未満 | 0.10〜0.20 % |
| PET | 0.02 %未満 | 0.10〜0.15 % |
| PBT | 0.05 %未満 | 0.08〜0.10 % |
| PMMA | 0.10 %未満 | 0.20〜0.40 % |
出典:近藤, 1996
PC成形時に推奨される残留水分率は0.02%であり、10kgのペレットに含まれる水分が2g以下という水準に相当するため、はかりによる直接管理は不可能です。したがって乾燥機の運転条件によって管理されます。
シルバーが出ないまま強度が落ちる
乾燥不足の材料を成形すると、水分が加熱で水蒸気となり、表面に銀色の筋が生じます。シルバーストリーク(銀条)と呼ばれ、強度低下及び外観不良の要因となります。
PCの加水分解では無味無臭の二酸化炭素のみが生成するため、成形中の異常検知が困難であり、出荷後に強度不足として顕在化する場合もあります(近藤, 1996)。シルバーストリークの不在は、乾燥が十分であることを意味しません。
予備乾燥と、その運用の落とし穴
汎用のポリカーボネートでは、射出成形前の残留水分率0.02%以下を目安に120℃で乾燥します。精密な光学部品ではさらに厳しい管理が求められます。ユピゼータ®EPでは120℃・6時間以上の乾燥と、残留水分率0.01%未満が推奨条件です(推奨乾燥温度はグレードにより異なります)。
予備乾燥の推奨条件についてはこちらで確認できます。
メーカーが示す乾燥条件は、防湿袋を開けた直後の新品ペレットが前提です。開封後に放置したペレット、着色ペースト混合品、リサイクル品、粉砕品はすでに水分を吸っており、同じ条件では乾燥不足になります(近藤, 1996)。
光学用途で低吸水性が重要になる理由
温度の影響は補正できても、吸湿は補正しにくい
温度による屈折率の変化は、実用の温度域では可逆的かつ直線的であるため、設計や校正で見込むことができます。吸湿による変化は緩やかに進み、戻り方も直線的ではありません(河合, 1995)。どれほど高精度に成形できても、材料自身が湿気で動けば精度は保てません。
ユピゼータ®EPの位置づけ
ユピゼータ®EPは、高屈折率・低複屈折・高耐熱を特長とする特殊ポリカーボネート樹脂です。屈折率1.616〜1.671、アッベ数19.2〜25.8、ガラス転移温度140〜145℃のグレードを揃えています。
ユピゼータ®EPの詳細についてはこちらをご確認ください。
用途はスマートフォンカメラ、車載カメラ、XRデバイスなど、小さなレンズに高精度が求められ、環境の変化にもさらされる領域です。
まとめ
吸水率を読むときの3つのチェック
- 数値の参照に先立ち、規格と条件(24時間値/飽和値/平衡値、厚さ)を確認する
- 寸法や強度だけでなく、光学部品では屈折率のドリフトを想定する
- 成形では吸水率ではなく残存水分率を基準に乾燥条件を組む
加水分解のしくみはポリカーボネート/ポリエステル樹脂の加水分解コラム、乾燥条件は予備乾燥コラムで詳しく解説しています。
ユピゼータ®EPについて
ユピゼータ®EPは三菱ガス化学が開発した光学用特殊ポリカーボネート樹脂です。200種以上のモノマーの組み合わせにより、屈折率・アッベ数・耐熱性を用途に合わせて設計できます。公開物性表に載っていないデータのご相談やサンプル提供は、公式サイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
一部の画像・文章に生成AIを活用してます