耐熱樹脂とは 定義・測定規格・主要樹脂の耐熱データ比較

基礎知識

耐熱樹脂とは 定義・測定規格・主要樹脂の耐熱データ比較

耐熱樹脂という言葉は日常的に使われますが、業界横断で合意された単一の定義は存在せず、実務では評価したい性質に応じて複数の指標が並立しています。代表的な指標はガラス転移温度(Tg)、荷重たわみ温度(HDT)、UL746Bに基づく連続使用温度(RTI)の3つであり、いずれも測定条件と評価対象が異なるため、単純に数値の大小だけで優劣を比較することはできません。本記事では、この3指標の関係を整理したうえで主要樹脂の耐熱データを一次情報で比較し、光学用途特有の「透明性と耐熱性の両立」という論点まで踏み込みます。光学設計者・材料調達者・研究者を主な読者として想定しています。

📌 3行でわかる要約

  • 耐熱樹脂に単一の定義はなく、Tg基準・HDT基準・連続使用温度(UL746B)基準の3つの評価軸が並立する
  • 主要エンプラの目安はTg約100〜220℃、連続使用温度約70〜260℃と樹脂系統によって大きく異なる
  • 光学樹脂は透明性維持のため非晶性構造に限定されやすく、耐熱性との両立が難しい。ユピゼータ®EPはTg140〜145℃でこれを実現


耐熱樹脂とは 複数の定義軸を整理する

耐熱樹脂とは、通常の汎用樹脂が変形・劣化する温度域でも安定して機能するプラスチックの総称です。ただし「安定して機能する」ことを裏付ける指標は一つではなく、評価軸ごとに異なる規格・測定法が用いられています(荒川技研 耐熱樹脂とは?種類・温度別比較)。

Tg基準 素材固有の相転移点

ガラス転移温度(Tg)は、非晶性樹脂がガラス状態からゴム状態へ移行する温度で、無荷重下でDSC測定により求める素材固有の物性です。Tgの定義・測定原理・主要樹脂の比較データは、ガラス転移温度Tgの解説記事で詳述しています。ここでは、Tgが耐熱性を判断する複数指標のひとつに過ぎない点を押さえておきます。

HDT基準 荷重下での変形開始点

荷重たわみ温度(HDT)は、規定の曲げ応力を加えた状態で試験片を昇温し、規定のたわみ量に達した温度を指す、構造強度寄りの指標です。無荷重条件のTgに対し、HDTは実使用に近い荷重条件を反映するため、構造部品の耐熱設計ではHDTのほうが実務判断に直結します。

連続使用温度基準 長期使用での劣化限界

連続使用温度は、UL746Bに基づく長期熱劣化試験によって規定される指標です。複数の温度で加熱劣化させたデータをアレニウス則に基づき外挿し、引張強度・衝撃強度・電気絶縁性といった初期物性がおおむね半分程度まで低下する温度を算出したものがRTI(相対温度指数)です(UL746B規格解説 安田精機製作所)。Tg・HDTが短時間・実質無劣化条件での指標であるのに対し、RTIは経年劣化を織り込んだ実用寿命の指標である点が本質的に異なります。



耐熱性を測る規格 JIS・UL

耐熱性の3指標には、それぞれ対応するJIS規格・国際規格が存在します。

  • Tg:JIS K 7121:2012(ISO 3146対応)。DSC法で補外ガラス転移開始温度・中間点温度・終了温度の3点を規定
  • HDT:JIS K 7191-1:2015/JIS K 7191-2:2015(ISO 75対応)。曲げ応力1.8MPa等での3点曲げ試験で、標準試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)を昇温速度120℃/hで測定し、規定たわみ0.34mmに達した温度を読む(JIS K7191 解説 湯本電機
  • 連続使用温度(RTI):UL746B(IEC 60216関連規格)

なお、樹脂の熱分解が始まる温度は、Tg・HDT・RTIのいずれとも異なる第4の評価軸です。分解のメカニズムと測定規格(JIS K 7120等)は熱分解の解説記事で扱っています。耐熱樹脂の「上限」を考えるときは、変形の指標(Tg・HDT)と分解の指標を混同しないことが重要です。



主要樹脂の耐熱データ比較表

以下は主要な樹脂系統の耐熱性指標を一次資料からまとめたものです。グレード・強化材・難燃剤の有無によって数値は変動するため、目安として扱ってください。

樹脂 Tg (℃) HDT (℃) 連続使用温度 UL RTI (℃)
PMMA 約100〜110 約85〜105 約70〜90
PC 約145〜150 約125〜140 約115〜130
PA66(Tm約255〜265) 約45〜60 約75〜250 約105〜150
POM(Tm約165〜175) 約−60 約110〜170 約85〜105
PBT(Tm約220〜225) 約45〜60 約60〜220 約105〜140
PPS(Tm約280〜285) 約85〜90 260以上 約200〜240
PEEK(Tm約340〜345) 約140〜145 約150〜300 約240〜260
PEI 約215〜220 約190〜210 約170〜180

出典:樹脂プラスチック材料環境協会 プラスチック材料の耐熱性比較

結晶性樹脂(PA66・POM・PBT・PPS・PEEK)は、Tgを超えても結晶部分が形状を保持するため、Tgではなく融点(Tm)とHDTが実質的な耐熱指標になります。一方、非晶性樹脂(PMMA・PC・PEI)はTgが事実上の上限温度として機能します。樹脂の結晶性・非晶性の区別が、耐熱指標の読み方そのものを左右する点に注意が必要です。



透明性と耐熱性を両立する難しさ

光学樹脂の設計では、透明性の確保が耐熱樹脂選定の制約条件になります。透明樹脂の解説記事で扱った通り、樹脂が透明であるためには分子配列が不規則な非晶性構造を取る必要があり、上表のPPS・PEEKのような結晶性の高耐熱樹脂は結晶部分での光散乱により白濁するため、光学用途にはそのまま使えません。つまり光学樹脂の耐熱設計は、最初から非晶性樹脂という限られた選択肢の中で、いかにTgを引き上げるかという勝負になります。

Tgを引き上げるアプローチには、剛直な分子骨格の導入や環構造の付与などがありますが、いずれも副作用を伴います。分子骨格を剛直にするとTgは上がる一方、線膨張係数(CTE)が増大しやすく、成形時の分子配向に由来する複屈折も生じやすくなります。この耐熱性と他の光学・寸法特性とのトレードオフについては、線膨張係数CTEの解説記事で詳しく扱っています。この構造的なトレードオフゆえ、光学樹脂で透明性と高耐熱性を両立させる設計は工業的な難度が高く、汎用樹脂の単純な組成変更だけでは実現しません。



エンジニアリングプラスチックとの関係

耐熱樹脂の多くは、性能・価格帯で分類される「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」という枠組みの中に位置づけられます。目安として、連続使用温度がおおむね100〜150℃の樹脂群がエンプラ、150℃以上がスーパーエンプラに分類されます(荒川技研 スーパーエンプラとは?種類や特性・主な用途の一覧表)。上表のPA66・POM・PBTはエンプラ、PPS・PEEKはスーパーエンプラに相当します。



ユピゼータ®EPの位置づけ 透明×高耐熱の両立

三菱ガス化学の光学樹脂「ユピゼータ®EP」は、全グレードでTg 140〜145℃を確保しながら、屈折率1.616〜1.671、アッベ数19.2〜25.8という光学性能を両立させています(ユピゼータEP公式 製品ページ)。

グレード 屈折率(nd) アッベ数(νd) Tg (℃)
EP-4500 1.616 25.8 145
EP-5000 1.636 23.9 145
EP-6000 1.640 23.5 145
EP-8000 1.661 20.4 140
EP-9000 1.671 19.2 140

※ 測定値であり規格値ではありません(公式注記)

Tg 140〜145℃は、上表の一般的な非晶性樹脂と比較すると、標準PMMA(約100〜110℃)を大きく上回り、汎用PC(約145〜150℃)と同等の水準です。高屈折率化はTgを下げる方向に作用しやすいというのが分子設計上の一般的な傾向ですが、ユピゼータ®EPは屈折率1.616〜1.671の範囲でTg 140〜145℃をほぼ維持しており、透明性・高屈折率・高耐熱を同時に満たす設計になっています。この特性は、発熱源に近接するスマートフォンカメラや車載光学系のように、高い光学性能と耐熱性が同時に要求される用途で選定条件を満たしやすい点につながります。



まとめ

耐熱樹脂という言葉は、Tg・HDT・連続使用温度という3つの異なる評価軸を一括りにした総称であり、単一の閾値によって定義されるものではありません。樹脂選定においては、これらの指標を混同せず、対象部品の使用条件(荷重の有無、短期使用か長期使用か)に応じて適切な指標を参照する必要があります。光学樹脂においては、透明性を維持する非晶性構造という制約の中で耐熱性を確保しなければならず、これはユピゼータ®EPのようにTgと光学性能を同時に最適化する分子設計が求められる領域です。



ユピゼータ®EPについて

ユピゼータ®EPは三菱ガス化学が開発した光学樹脂で、屈折率1.616〜1.671、アッベ数19.2〜25.8、Tg 140〜145℃の高耐熱グレードを揃えています。独自分子設計による低複屈折と高屈折率の両立も特長です。詳細な物性データやサンプル提供のご相談は、公式サイトのお問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

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