基礎知識
屈折率とは 光学樹脂の材料選定とレンズ設計に活かす基礎
屈折率は、光が物質中を伝わる速さを規定する物理量であり、レンズの曲率設計や材料選定の起点になる数値です。測定波長・測定規格・アッベ数との相関を押さえて初めて、設計に使える情報になります。本記事では、屈折率の物理的定義から測定規格、光学材料間の比較、レンズ設計での意味、複屈折・耐熱性との関係までを、材料選定・レンズ設計の実務に接続する形で整理します。
📌 3行でわかる要約
- 屈折率 n=c/v(真空中光速 ÷ 媒質中位相速度)。JIS K 7142:2014(対応ISO 489:1999)で規格化された方法で測定される
- 屈折率を上げるほどレンズは薄くできるが、多くの材料でアッベ数(分散)が下がり、色収差とのトレードオフが生じる
- ユピゼータ®EPはnd 1.616〜1.671の複数グレードを持ち、Tgをほぼ変えずに屈折率だけを選べる設計が特徴
屈折率の定義と物理的意味
n=c/vという定義
屈折率 n は、真空中の光速 c と媒質中の位相速度 v の比、n = c/v として定義されます。値が大きいほど媒質中で光の進む速さは遅くなり、境界面での光の曲がり方も大きくなります(島津製作所 屈折率とは)。2つの媒質の境界での屈折角はスネルの法則 n₁sinθ₁ = n₂sinθ₂ に従い、屈折率 n₂ が大きい媒質に入射するほど光線は法線に近づくように曲がります。レンズの集光力は、この屈折角の大きさそのものに由来します。

波長依存性と測定波長の慣習
屈折率は光の波長によっても変化し、この現象を分散と呼びます。多くの透明材料では短波長(青)側ほど屈折率が高くなります。光学材料のカタログ値は、d線(波長587.56 nm、ヘリウム)を基準としたndで表記するのが慣習であり、青(F線)・赤(C線)との屈折率差からアッベ数νdが導かれます(分散の詳細はアッベ数の解説記事を参照)。
測定方法と規格
プラスチックはJIS K 7142
プラスチックの屈折率はJIS K 7142:2014「プラスチック−屈折率の求め方」で規格化されています。対応国際規格はISO 489:1999(MOD、修正対応)です。同規格にはA法とB法があります。
- A法:成形品・キャストシート・押出シート・フィルムを対象に、屈折率計(アッベ屈折計)による臨界角法で測定
- B法:粉体・粒状の透明材料を対象に、顕微鏡下での液浸法(ベッケ線現象を利用)で測定
ガラスは別規格で測定
光学ガラスの屈折率測定には、プラスチックとは別にJIS B 7071-1「光学ガラスの屈折率測定方法−第1部:最小偏角法」が用いられます。プリズム状の試料に光を入射し、偏角が最小になる角度から算出する方法です。参照している数値がどちらの規格・測定法によるものかを確認しておくと、異素材間の比較で誤差要因を持ち込みにくくなります。
主要光学材料の屈折率比較
代表的な光学ガラス・光学樹脂のnd(d線基準)を並べます。
| 材料 | 種別 | 屈折率 nd |
|---|---|---|
| 石英ガラス | 光学ガラス | 1.458 |
| N-BK7 | 光学ガラス | 1.517 |
| PMMA(アクリル) | 光学樹脂 | 約1.49 |
| COP(ZEONEX®系) | 光学樹脂 | 約1.53 |
| 標準ポリカーボネート | 光学樹脂 | 約1.585 |
| サファイア | 結晶 | 1.76〜1.77 |
| ユピゼータ®EP(特殊PC) | 光学樹脂 | 1.616〜1.671 |
出典:樹脂プラスチック材料環境協会 屈折率一覧、SCHOTT N-BK7、日本ゼオン、ユピゼータ®EP 製品ページ
一般的な光学樹脂の屈折率は1.49〜1.60程度に収まります。ユピゼータ®EPのように1.6を超える光学樹脂は標準グレードでは到達しない領域で、樹脂でありながらガラス並みの高屈折率を狙える点が選定上の分岐点になります。

屈折率がレンズ設計で持つ意味
高屈折率化はレンズの薄型化に直結する
屈折率が高い材料ほど、同じ集光力(パワー)を得るための曲率を小さくできます。結果として、レンズを薄く・軽く設計できます。スマートフォンカメラのように厚み方向の制約が厳しい光学系では、屈折率の高さがそのまま設計自由度に転換されます(東海光学 光はなぜ屈折する?)。

アッベ数とのトレードオフ
一方で、屈折率とアッベ数には負の相関があることが知られています。ユピゼータ®EPのグレード間でも、屈折率が1.616から1.671へ上がるにつれ、アッベ数は25.8から19.2へ単調に低下します(詳細はアッベ数の解説記事)。屈折率単体で材料の優劣を判断することはできず、薄型化の要求とアッベ数(色収差)の許容範囲を両にらみで見た上で、レンズ構成(枚数・材料の組み合わせ)を決める必要があります。
屈折率と複屈折・耐熱性との関係
高屈折率化と複屈折感度は連動しやすい
屈折率を上げる分子設計は、複屈折の感度にも影響します。一般に、ベンゼン環などの芳香族構造を含む樹脂(PC、PSなど)は屈折率が高くなる一方、光弾性係数が大きく、わずかな残留応力でも複屈折(光学的な歪み)が発生しやすい傾向があります(射出成形の駆け込み寺 透明樹脂の光学特性)。屈折率を高く設計する際は、複屈折の管理までを同時に検討する必要があります(複屈折の解説記事)。
耐熱性(Tg)は屈折率と独立に設計しうる
屈折率を上げる分子設計は、必ずしも耐熱性(ガラス転移温度Tg)を犠牲にするとは限りません。ユピゼータ®EPでは、屈折率が1.616〜1.671の範囲で変化する一方、Tgは140〜145℃という狭い範囲にとどまっており、屈折率とTgをある程度独立に制御できていることを示しています(ユピゼータ®EP 製品ページ)。屈折率を上げれば耐熱性や成形性が比例して悪化するわけではなく、分子設計次第で物性の組み合わせを作り込めることを示す一例です。
ユピゼータ®EPの位置づけ nd1.616〜1.671の意味
ユピゼータ®EPは、三菱ガス化学が開発した光学用の特殊ポリカーボネート樹脂で、射出成形用ペレットとして供給されます。屈折率別に複数グレードを展開しています。
| グレード | 屈折率 nd | アッベ数 νd | Tg(℃) |
|---|---|---|---|
| EP-4500 | 1.616 | 25.8 | 145 |
| EP-5000 | 1.636 | 23.9 | 145 |
| EP-6000 | 1.640 | 23.5 | 145 |
| EP-8000 | 1.661 | 20.4 | 140 |
| EP-9000 | 1.671 | 19.2 | 140 |
出典:ユピゼータ®EP 製品ページ(測定値であり規格値ではない旨の注記あり)
光学ガラスは既存の硝材リストから選定するのに対し、ユピゼータ®EPは組成設計によって屈折率・アッベ数・Tgの組み合わせを変えたグレードを用意しています。設計側が「必要な屈折率」を起点にグレードを選び、透明性・複屈折・成形性は透明樹脂の解説記事や複屈折・アッベ数の各解説記事とあわせて確認する、という選定フローが成立します。スマートフォンカメラレンズ、車載光学系、AR/VR用光学部品など、薄型化と色収差補正を同時に求められる用途が主な想定領域です。
まとめ
- 屈折率 n=c/vは、JIS K 7142:2014(対応ISO 489:1999)で規格化された方法で測定される
- 光学ガラス・光学樹脂ともにnd1.5前後が標準域で、1.6を超える領域は特殊な分子設計を要する
- 屈折率を上げるとレンズは薄くできるが、アッベ数の低下(色収差)・複屈折感度の上昇という設計上の代償を伴う
- ユピゼータ®EPはnd1.616〜1.671の複数グレードを、Tg140〜145℃という狭いレンジで提供し、屈折率とアッベ数・耐熱性を切り分けて選べる設計になっている
材料選定では、屈折率単体ではなくアッベ数・複屈折・耐熱性・透過率をあわせて検討する必要があります。
ユピゼータ®EPについて
ユピゼータ®EPは三菱ガス化学が開発した光学用特殊ポリカーボネート樹脂です。屈折率1.616〜1.671の複数グレードを、Tg 140〜145℃という狭いレンジで提供し、屈折率とアッベ数・耐熱性を切り分けて選べる設計が特長です。グレード別の詳細データやサンプルのご相談は、公式サイトのお問い合わせフォームからどうぞ。